最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)69号 決定 1968年6月26日
本店所在地
茨城県結城郡千代川村宗道三二番地
石塚産業株式会社
右代表者代表取締役
石塚欣
右の者に対する法人税法違反被告事件について、昭和四二年一二月一二日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人関山忠光の上告趣意は、量刑不当の主張であつて、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外 裁判官 色川幸太郎)
上告趣意書
昭和四三年(あ)第六九号
被告人 石塚産業株式会社
代表者
代表取締役 石塚欣
弁護人関山忠光の上告趣意(昭和四三年二月一五日付)
原判決は刑の量定甚しく不当であつて、之を破棄しなければ著しく正義に反するものである。
一、原判決は被告人に対し金一千万円の罰金を課している。
二、然し乍ら次の理由により右原審の刑は甚しく苛酷な重刑であると謂わねばならない。
(一) 被告会社代表者石塚欣ははじめ個人企業として昭和三〇年頃より砂利採取を始めたが、砂利納入先より信用を得る取引上の必要から昭和三六年八月より本件被告会社を設立し引続き砂利採取事業を継続してきた。
然し乍らその実質は依然として個人企業同様であり石塚欣も個人企業の意識を以て仕事を続けたものである。
従つて会社には計理士税理士などもおかず女子事務員一人を使い、ひたすら勤勉努力節約して懸命に動き当然会社に認められている交際費の支出もなさず経費も極度に節約して、資金の蓄積だけに没頭してきた事情にある。
(二) 会社代表者石塚欣は朴直品行方正事業熱心で社会的に最も信用があつたことは、同人作成の答申書其の他の証拠により優に認めることが出来る。
(三) 右石塚欣は何故にひたすら資金の蓄積に努力しなければならなかつたか。検察官冒頭陳述書(その一)の第六(犯行の態様とその動機)に
その動機は年々河川の砂利・砂の採取行為は規制される傾向にあるため、被告人は鬼怒川水系(被告人会社の採取地)においてもやがて全面禁止の事態の発生があることを予想し、その場合に際し転業資金や従業員の退職金を確保しようと考え資金の保有を計つたものである。
と述べられているが、その通りの実情にあつた。
即ち建設省の過去の規制並に将来の計画によれば、許された採取量は昭和三八年度は前年の二〇%減・昭和四〇年度は一五%減となつたのみならず鬼怒川水系の一部・相模川・多摩川其の他多くの河川において全面採取禁止の処置がとられた。
然し昭和四五年度には昭和四〇年の採取実績の六五%減即ち三五%の採取が認められるに過ぎない情勢にある。
その為河川採取を止め山採石に切換えるためには設備資金が億単位必要となり、且山採石は機械採取となるため多くの従業員の退職に伴い多額の退職金を準備する必要が生じて来る。
これが被告人会社代表者石塚欣が本件に於て資金の蓄積に没頭した理由である。
そのため会社に当然支出が認められている交際費も使わず何一つ贅沢もなさず転業資金を自己の力で蓄積し将来の事業発展のみを念願した本件被告会社は寔に情状酌量すべきものである。
(四) 被告会社は本件脱税行為に対する納税として其の後合計金七四、一九三、九七〇円を納付していること原審に提出した各領収証書記載の通りである。即ち
自三八・二・一至三九・一・三一
(一) 法人税 本税 八、一一九、四八〇円
加算税 二、三四二、四五〇円
自三九・二・一至四〇・一・三一
法人税 本税 一四、六六九、七八〇円
加算税 四、四〇〇、七〇〇円
自四〇・二・一至四一・一・三一
法人税 本税 一九、〇〇二、〇七〇円
加算税 五、七〇〇、六〇〇円
自三八・二・一至四一・一・三一
以上の延滞税 四、三一二、二六〇円
(二) 右法人税に附随して納付したもの
自三八・二・一至三九・一・三一
法人県民税 四二五、五九〇円
法人事業税 二、二四九、九〇〇円
自三九・二・一至四〇・一・三一
法人県民税 七九二、一七〇円
法人事業税 四、三五三、四四〇円
自四〇・二・一至四一・一・三一
法人県民税 一、〇四四、八九〇円
法人事業税 五、七五八、〇一〇円
自三八・二・一至三九・一・三一
法人事業税税額 四五、〇〇〇円
延滞金額 一六八、四九〇円
自三八・二・一至三九・一・三一
法人県民税延滞金額 三一、一四〇円
自三九・二・一至四〇・一・三一
法人事業税延滞金額 三一八、六六〇円
自三九・二・一至四〇・一・三一
法人県民税延滞金額 五七、九八〇円
自四〇・二・一至四一・一・三一
法人県民税延滞金 六一、六四〇円
自四〇・二・一至四一・一・三一
法人事業税延滞金 三三九、七二〇円
(三) 以上合計金 七四、一九三、九七〇円也
右の通り本件脱税行為の償いとして本件脱税額の二倍以上の税金を国並に茨城県に納付しており、之に更に納付した市町村税を加えれば厖大な金額となる。
(五) 即ち被告会社は本件脱税行為の罰として前項の通り既に合計金七千四百拾九万参千九百七拾円の納税を完了しており会社としては裸一貫の姿となつた。
而も会社代表者石塚欣は第一審に於て課せられた懲役一〇月(二年間執行猶予)の刑罰に服している。
前記の情状あるに不拘、原判決は被告人に対し更に罰金一千万円に処しているのであり、従つてその刑の量定が甚しく不当であつて之を破棄しなければ著しく正義に反するものと認められるものである。
仍つて貴裁判所におかれては原審記録並に証拠御精査相成り慎重御審議の上原判決破棄の御裁判賜りたく刑事訴訟法第四一一条第二号に則り御明鑑に訴える次第である。 以上